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破片
hpの記録です。目標ばかりが増えていく……。
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2024-05-21 [Tue]
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2009-06-02 [Tue]
以前から晒していたヤツが、もう、手が付けられない程ドン詰まって、「うわこれはダメだ!」とボツにしたのですが、
今見ると「え?結構いいじゃん!」と思ったので晒します。

ブログペットの上に簡単感想フォームがあるので、ポチっとしていただけると嬉しいです!回答を追加することもできます。ポチっとして下さい。特に、今回は1度ボツにした経緯があって不安なので(汗)

中身は見せない (モモジルシ ゴスロリ風10題 4)

 どうしようもなく、誰かを愛したことがある?
そう呟きながら、シーナはシャツを脱いでいく。
第2ボタンから1つずつ外していく度に、肌が外気に晒される。彼の寝室はピンと張りつめた夜に満たされていた。声を出すのも憚れる緊張に、クロスは息を詰めた。そして、慎重に息を吐く。天窓から入ってくる煩いほどの星明かりが、ジリジリと彼の肌を嬲っていた。

胸の辺りに浮かぶ骨の形が落とす大きな影は、どうして生きていけるのかと見る人を怯ませる。上から撫でれば直接固い感触が伝わってくるのだ。クロスも、シーナ本人も知っている。
ボタンを半分外したところで、ナイトテーブルにポツンと置かれた手紙を手に取る。
「ベイゼル宛に来ていた。まだ読んでないけど」
ベイゼルとはシーナの偽名か何かだろうと、クロスは想像する。2人の故郷では最もポピュラーな名前の1つだ。空想すると言った方が適切なほどに、彼は緩慢にシーナの生活を思い描いた。また、誰かに縋り付くように献身的に、そのか細い魂を捧げているのだろうか。
シーナは星明かりに封筒を翳している。夜空に捧げ物をするように体を伸ばす。透かされて朧に浮かび上がった文字を読み取り、また催促だとシーナは小さく笑った。腕の影が肌に落ちる。無防備な脇腹が、シャツのはだけた間から見えていた。クロスはベッドに横たわってそれを見ていた。

シーナはそれを見て、ゆっくりと口角を元に戻す。シャツの裾をたくし上げて、自分の脇腹を確かめた。 
「……」
傷痕があった。それ程大きくはない。しかし、彼の肌には目立つ。
「これが気になる?」
シーナが言う。悪戯っぽく、誘っているようにも聞こえた。クロスはそれがシーナの本心なのか判断できずに戸惑う。試しているように感じられた。気のせいかも知れなかった。穿った見方かも知れない。単純に機嫌がいいだけ? ただそういう風に偶然発音されただけだろうか……シーナは何も意識していないかも知れない。

沈黙の時間は長くなかった。
「ああ」
クロスは肯定していた。全ての推測は推測以上のものにならなかった。ならば、肯定するのが1番無難だ。彼は各地を点々とした経験からそう判断する。
返事を受けて、シーナは笑った。以前彼に見せていたような、華やかな笑みではなかった。皮肉っぽく愉快そうに、苦笑するようにゆっくりと、にやりと笑った。心臓が縮み上がるような衝撃だった。シーナがこのように笑う人間であるいうことが、クロスには驚愕すべきことだった。耐えられない悲しみにも、夢から醒める時の衝撃にも似た感覚だ。……目を閉じると、乾いていた眼球に柔い痛みが走った。

「妹につけられた」
「妹が?」
「1人いる。もう大人だ」

シーナは着替えを終えて、ベッドに腰掛けた。何処にでもありそうなラフなズボンに、無地のティーシャツ。
「親の代わりに育てた」
短い補足。俯き気味な顔は静かな表情をしている。
「それが、どうして」
クロスの言葉に、シーナは顔を上げた。クロスの方を見る。穏やかに微笑んでいた。クロスは、心の何処かで安堵した。
シーナの閉じられた唇が、ほんの少し開く。言葉を紡ぎ出す前兆のようだった。変わっていない柔い桃色の唇を星明かりが照らしている。何か言いたげに少しだけ蠢いて、息を吸って、やんわり閉じられた。その間際、口の中の暗い部分が、じっとりと光を反射した。
シーナは特上の秘密を分かち合う時の子どものように楽しそうにグッとクロスに体を寄せて、顔を耳に寄せて静かに
「彼女が無暗に殺そうとしたから、それを止めるために」
そう告げた。
シーナの行為と発言内容とに噛み合わないものを感じて、クロスは怪訝そうに顔を顰める。真意を見出そうと、そっと息を潜める。人間の体の中に心を探すようにシーナの体の中に意識を集中して、密やかに深呼吸を1度。
そのクロスの張りつめた気配をシーナは感じ取って……驚いた。緊張した、というのも違う。彼は驚いた。呆然とした表情を束の間見せて、真顔になる。クロスがそういう反応をするのが、彼には意外だった。
そして、悲しくなった。
2人は再会して──ある人の言葉を借りれば出会い直して、まだ数日しか経っていなかった。交わした会話もそれ程多くない。それにも拘わらずクロスが自分のベッドスペースにいることに、シーナは満足していたし、それを何処か楽しんでいた。クロスが、この自分の節操の無
い行為を不愉快に思っているのを感じてはいたが、それは自分に恋人がいるからだと考えていた。しかし、違った。彼がここまで、こんなにもクロスが自分との距離を取りたがるとは思っていなかった。まるで捕らえられた捕虜のようにこちらの出方を窺ってくる。

シーナはクロスから体を離した。立ち上がり、テーブルに戻していた封筒にナイフを入れた。紙が切り裂かれていく感覚に、涙が1粒落ちた。彼はこんな卑しい態度を見せる男じゃなかった。いつも堂々としていた。シーナは自分のしたことを思う。裏切った。
(利用させていただいて捨てた)
しかし、心の1部が仕方のないことだと囁いていた。クロスも外に出て分かっただろう。国の外が、どういうところか。彼は許すと言った。それは知ったということだ。
「もう、この話は止めにしたい」
シーナは呟く。殆ど無意識に。誰に言ったのか、自分でも分からなかった。なのにクロスは
「お前の好きにしていいよ」
と、優しい言葉をかける。それがシーナにはショックだった。やましい部分が痛む。
(あれは優しさではなく遠慮だ)
シーナの中の冷静な自分がそう判断する。クロスという男は、お前なんか信じていないよ。罪悪感が囁きかけてくる。
手紙を取り出して広げた。催促ではなかった。サー・ロイ、あなたが受賞しました。シーナはそれを、クロスに決して見付からないように封筒に仕舞う。気取られないようにと思う程、手が震えた。ロイ。酷い名前だ。いつかクロスに何もかも吐露して懺悔する日が来るならば、どうにかその瞬間まで秘密にしておきたいことの、これは1つ。
今日、こんなにも彼との距離を悲しく思った自分の我が侭な気持ちも、その秘密に加えておこう。あまりに醜い。

…………。
……………………。


静かに流れる沈黙。

静かに流れる沈黙の残酷さの中、クロスはシーナを見上げていた。シーナの心の内側で、何かがせめぎ合っているのが分かっていた。別離の間にシーナの中に生じた様々なものを、空想するように想った。シーナに大人のような狡猾な笑みを教え、妹のために傷を残させたものが存在したことを悲しく思い、同時にそれが本来の彼だったのかという疑念が頭をもたげる。
「お前の好きにしていいよ」
繰り返す。返事という訳ではない。意味もなく、溢れた言葉だ。いや、溢れさせた。クロス本人も分からなかったが、この沈黙に耐えられなかったのではなく、その言葉が必要に思えた。
誰に? ……きっと、自分に。
シーナが変わってしまったこと(あるいは彼がそうであったこと)を許したかった。時の流れは取り戻せない。何より、離れていた間をも支配してしまいたいという自分の欲を直視できなかった。シーナは彼の変化に傷付く自分に気づいていない。ということは、彼は本当に彼の知らないうちに変わったのだ。あの笑みが本性で、以前隠していたならば、きっと自分の戸惑いに気づいたはずだ。そう考え直して、額を手で押さえた。

不意にグシャリと、紙が押し曲げられ、潰れる音が聞こえた。
「ごめんなさい」
そう言う小さな声が、幽かに聞こえた。

 自分が変わったことにシーナは気づいていない。そしてその変化に、再会した相手が戸惑いを感じても、それは自然なことであるということを、彼の罪悪が隠蔽している。クロスはそれに気づかない。どうしようもなくお互いが傷付いているのを感じながら、後少しのところまでシーナの痛みに迫りながら、クロスは焦燥に似た緊張だけを感じていた。

シーナの小さな謝罪に、クロスは心の中で大きく「違う」と叫んだ。それは欲しい言葉ではないと。しかしそれは届かない。声にしないものは届かない。

「返事を書いてくるから。寝てて」
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きょうテルルは、
きょうテルルは、中身は回答しなかった。
BlogPetのテルル URL 2009/06/04(Thu)17:21:15 編集
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