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破片
hpの記録です。目標ばかりが増えていく……。
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2009-12-27 [Sun]
上手く書けたと思ったのに、汚い字だと言われてガッカリなゆらです。うちの中では上手い字なの!……来年から、年賀状は宛名も印刷にしようかな。


最近なんにもupしていないですが、このままだとゴーストライターと喧嘩別れしたんだろうと言われても言い訳できないので、一応書いてますよってことで、シーナがクロスを虐めてマカロンを押しつける話の続き。もう何か上手く書けてなくて恥ずかしいです……。





咀嚼し、嚥下しても、2人に会話はなかった。停滞した空気が、言葉を奪い去っていく。その重たさの中
「ゼノン、紅茶を淹れて欲しいな」
略奪を免れたシーナの言葉が、虚空に飛び立つ。すぐに廊下からドアが開閉する音が聞こえて、ゼノンが小走りにやって来た。どこにいても、どんなに小さくても主の命令[こえ]は聞こえるのが使い魔というものだ。大人2人の間に横たわる停滞も気にせず
「何の紅茶にする?」
とあどけない笑顔を振りまく。命令が与えられている間は、その履行に関与しない情報は必要ないのだろう。
「ミルクで淹れた紅茶がいいな。一緒にお茶の時間にしよう」
「やった!」
ゼノンがチラッとテーブルの上を確認する。これは、関与する情報らしい。
クロスはゼノンの後ろ姿を見送る。茶葉を選ぶために台を取り出してきているのを見て、紅茶を淹れるのは専らゼノンなのだから、シーナも低いところに置いておけばいいのにと思う。
「クロス」 
突然名前を呼ばれて、クロスの心臓が緊張する。
「座ったら?」
緊迫感を思い出しているクロスの気配を無視するように、シーナは涼しい声で続けた。視線は使い魔に固定されたままだ。先程まで、アンダーグラウンドの駆け引きをしていたとは思えない。
(否、それなら俺の方か……)
勝手に油断して、勝手に驚いて、 
「馬鹿」
視線を急に上げてクロスを見つめた蒼い瞳が、彼の思考の流れを引き継ぐように言い放った。
「ねぇ」
真っ直ぐとこちらを見つめる。くすんだ瞳に射られたように心が竦んだ。それでも身体を動かして、向かいのソファに座る。今の動きは上出来だ。

遠くで、鳥が大きく鳴く声がした。
時々何故か、ここが森の中であるということを忘れそうになる。
「さっきの話だけど、結梨から……どこまで聞いた?」
シーナが切り出した。空気に差し入れるようにそっと、鋭く。
しかし、僅かに混ざるぎこちなさにクロスは気付いていた。どこまでビジネスライクに対応すればいいのか、彼も戸惑っているのだろう。距離を測りかねているという状況はこれまでも2人の間に何度かあったことで、なんとなく、そういうときシーナがどういう顔をして、どういう声を出すか、クロスにも分かるようになってきた。
「俺のことについて、心配していたと、それだけ」
クロスはそう言って肩を軽く竦めた。その真実だというアピールはきちんと伝わったらしく、シーナは軽く頷いて答えた。
「結梨らしい、嫌なやり方だ」
マカロンを摘み上げながらシーナが小さく言い捨てるのを聞いて、クロスが
「お前の1番秘密にしておきたいことを伝えることが、俺を1番動かすことになるだろう。だと」
と、結梨の言葉を彼に教える。シーナが顔を背け、不機嫌そうに眉を顰めて手を止めた。
「1番秘密にしておきたいこと? 俺は、クロスには、俺がどれだけお前の至らなさを心配しているのかよく自覚して欲しいと常に願っている」
声は荒げないが、いっそ震えだしそうな程強い口調で言い切る。乱暴にマカロンを口に押し込んだ。その咀嚼が鎮まった時、
「すまないな、心配ばかりで」
素直に謝罪の言葉が溢れたことに、内心、クロスは自分でも驚いていた。シーナがふと顔を上げる。その表情に宿っている身を切るような感情が、驚きか、悲しみか、切なさか、あるいはよく似た他のものなのかクロスが読み取る前に、タイムリミットの音がした。
食器が立てる微かな音が──響く。
目を伏せる銀髪の男。
紅茶を運んでくる気配。クロスの前のシーナは、使い魔の方に視線を向けている。その目は、何も見ていないのだと直感が言った。……見ているのだとしたら、自己の内側を? ゼノンが何も言わずに3人分のカップを配置する。何が、シーナの心をそれ程に揺るがしたのだろう。こんなに分かりやすくぼおっとして。見やれば、自分のカップをまず最初に出してきたゼノンの頭を、シーナが軽く撫でてやっているのが視界に入った。ゼノンのやわらかい頬が笑む。
ふわりとした。
停滞。
ティーカップからの湯気。
ふわ、ふわとたゆたう。
ふと、
「いいね」
と、口が開く。
そのシーナの呟きに、クロスは目を伏せて同意した。カップの中から、何かに導かれるように引き出される湯気と香り。上へと昇っていく。まるで神さまを信じているように、ためらいなく。
クロスが何か言おうと唇を動かしたとき、それよりも僅かに早くシーナが
「結梨の下で働くのは、止めろ」
と、言い放つ。
呟くように呻くように小さい声だったけれど、叫ばれたよりもよく聞こえた。
クロスは全く驚かなかったし、咄嗟に反論しようとも思わなかった。
「今なら引き返せる。腕が悪いとかそういうことは関係なくて、……そんな危険なことは、望んですることじゃない。……俺がどうしてこんな仕事をしているか、お前も知っているだろう?」
静かな声。
「いや」
小さな否定。
「それは、恐れ入る」
シーナが苦々しく笑って(恐らく、嘲笑しようとして失敗して)、肩を竦めた。
シーナが横をチラリと見る。
ゼノンがいないことに、クロスはそのとき気づいた。
「平和ではないという状態は、精神を蝕む」
俺は大丈夫だ、というクロスの言葉は喉の中で詰まった。
そういう思いは世界に嫌われ、裏切られ、人は足を掬われる。
カップは冷めようとしていた。
「お前も、変わってしまうかも知れない」
吐露。もしかしたら、泣きそうな声と表現できそうな震え。シーナの身体がいつよりも細く、砕けそうに脆く見えた。そんな彼の声を、クロスは初めて聞いた。情報屋は、例え泣いても声は変わらない。それが、彼らの職業病なのだ。
だから、これが、彼の本当の涙なのだろう。 

クロスは、彼の祖国で暮らしていたシーナのことを思い出していた。
(つまり、騙すために偽りを演じていたシーナのことを)
その頃の彼と、今の彼には、多くの相違がある。
それはシーナが変わったということではない。しかし、先の彼の言葉はクロスに沢山のことを想起させた。温かい珈琲から溢れ出す湯気のように、際限ない思い出。
辛くはなかった。裏切られた記憶も、再会して、本当の彼の姿を見たときの戸惑いも、今は思い出に過ぎなかった。
目の前のシーナは、昔のような仕草で手の中のカップを見ていた。
「俺は大丈夫だよ」
シーナは視線を上げない。
どことなく懐かしい。このようなことは、以前にもあったような気がする。
それは、クロスの、昔のシーナも全て演技だった訳ではないはずだという望みが与えた錯覚だったかも知れない。その可能性について考えている自分の思考を認知しながらもクロスは、
「きっと、お前に救われるから」
その言葉を止められなかった。
「この家は、祖国のように居心地がいい」
クロスの呟きがシーナの鼓膜に触れる。
率直に想いを伝えたときに、黙りこくられるのには慣れている。
足を組み、後どれくらいで、どのような反応が返ってくるかと、クロスはマカロンを摘み上げる。何かへの敬虔な祈りのように、遠くで鳴く鳥の声が1つ響いた。
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印刷するの?
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BlogPetのテルル URL 2009/12/28(Mon)14:19:57 編集
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