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破片
hpの記録です。目標ばかりが増えていく……。
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2024-05-03 [Fri]
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2011-07-01 [Fri]
ここで言っていたとおり、ドールが国を出る話を書いてみました。正確には出てないです。 

まだ推敲とかしていないし、少し書いては予定と話が変わり、戻って書き直し……というのが続いたので、話のつながりが不自然な部分があるかもしれません。

それを直すのにかなり時間がかかりそうなので、とりあえずここに仮upします。

約5400字あります。

ラストは力尽きました。



聖堂の門扉はだらりと開け放たれていて、常時の威厳を失っていた。
ドールは身を隠すことも忘れて、聖堂に足を踏み入れた。
爆発の独特の空気。感触。人体の匂い。
左足が木片を踏み、右足が金属片を蹴った。
破壊された長椅子の群れ。
破壊された人間の群れ。
人間たちが秩序を持って正しく形成していた整列が、今はちりぢりになり椅子に隠れ、あるいは血を流し呻き、あるいは、事切れている。
ボソボソと声が聞こえた。警戒態勢の指令にもかかわらず漏れた言葉が、ドールの耳にも届いた。ある者は悲鳴のように、ある者は吐き捨てるように、「悪魔」
狙い澄ましたように、重症者、死者は男子に偏っていた。爆心地がよりにもよって軍事科の列だったのだと、その瞬間を見ていないドールにも分かった。彼らの襟の赤色装飾が、戦地での犠牲を厭わない高潔の精神を誓う証が、今、こんなところで血に塗れている。 
「何をやっている」
その抑えた声に振り返って、そこにいた男を見て、
「王さま……」
泣き出しそうな声で、その人を呼んだ。
その背後で「学徒修了認定式」の立て看板が、この場で潰えた全ての命を代表するように音を立てて倒れた。
「冷静に。観察を怠らず、何をすべきか考えること」
ドールの横に立って、王さまと呼ばれた男は、王さまらしく小さな声で彼を叱咤した。こんなことは、初めてだった。その言葉の厳しさはドールの頭を鋭利していく。自分を包む絶望や、恐れのベールが剥がれ落ちたように──周囲を見渡す。
軽傷者、迅速に手当をすべき重傷者、無傷の者。彼は重傷者の方へ一歩踏み出そうとして、止めた。
皆、怯えた顔をしていた。
教官ですら怯えた顔をしていた。
そしてその意味を悟って、
頭が視界がぐらりと揺れて、

そして……ドールは見つけた。
ゆっくりと歩み寄っていく。彼の動きを止めようとするように祈りを捧げる小さな声が聞こえたけれど、ドールは全く気に留めなかった。
それを拾い上げた。何も知らない赤ん坊に手を差し伸べるような気持ちだった。焦げてへしゃげて2つ折りになった金属製の杖。腕を杖に固定できる医療用だ。それを見た瞬間、それが何を示すのか分かったから、一瞬だけ心の片隅で、見つけなければよかったと、思った。そう思う自分を冷静に知覚する自分がいて、ドールの人形に整った表情を歪ませた。
「見て」
男を振り返った。
彼は無表情にそれを見た。感情を悟られないようにしていると言うよりは、どう反応したらいいか分からないという感じだった。ドールは……何故だかそれが、とても嬉しかった。思わず杖を抱き締める。最初は弱々しく。
次第に力がこもる。
そしてしっかりと男の目を見て、言った。
「ここから、出て行くべきだと思う」
「俺も同意見だ」
男には、ドールがどういう思考を経てその結論を出したのかが分かった。無邪気に彼を天使と思っていた頃の彼なら分からなかったかも知れないけれど、彼も変わったから、ドールの目を優しげに見て、静かに肯定した。ドールの顔には諦観と決意。諦めることを決意した顔。
国を離れるとき、みんなこういう顔をする。
ドールは外へ歩き出した。背後で、痛みに呻く声が大きく響く。ドールは辛そうに眉を顰めて、それでも振り返らなかった。
男は頷いて、その背中にそっと手を添えた。

外の空気は涼やかに2人を包み込む。出来の悪いブラックジョークのようだ。
部屋に戻るかと訊く男に、ドールは首肯した。
「犯人の死体は回収できないだろうから、これだけでも弔ってあげたい……。でも、すぐに警官隊が来て、そうなったら取られるから。見せしめに使うために。だから、とりあえず部屋に隠そうと思う。見られちゃったけど……すぐにあの部屋には来れる人間はいないから」
堰を切った彼の言葉と歩みは止まらない。ほとんど走っていると言った方が正しかった。そしてついに
「医学科の学徒として、最善のことをした!」
呻くように泣き叫ぶような声をきっかけにして走り出す。
それは宣誓だった。片目のために兵士になれないならば、せめて軍医にという志が潰えたという。
痛いほどの沈黙でもって男はそれを承認した。
ドールが苦しむように顔を歪める。微笑もうとして失敗している。
この国の人間は悪魔の治療より死を選ぶのだと、男は知っていた。今日よりも前から。それなのにドールを聖堂に向かわせてしまったことが、果たして正しかったのかと自己に問う。しかし一瞬だった。後悔は後ですべきだ。
男は少しだけ口角を上げて、未熟な微笑みに応えた。
「どうして犯人が分かった」
空気を入れ換えてやるために、男は訊いた。
「医療用の杖をつくのは故障者とcripple。今故障者はいない」
唾液を喉に詰まらせる音が、ドールの細い首からする。
「crippleはあの場に入れない。devilishと一緒」
devilish。銀髪は悪魔の手先。男の胸の内は苦々しい。侮蔑のこもった言葉が本人の口から、日常用語のように出てくるのだ。
男は乱暴に髪を掻き上げ、
(冷静に)
今度は自分に宣告する。盗賊に必要な才能は冷静になれと言われて冷静になれることだと言うヤツもいるが、男が思うにこれは単純に習慣だ。男は思考を整理していく。この国において、悪魔の手先を普通の少年だと信じ守る人間は自分しかいないということを、男は熟知しているのだから。
普通ならいない人がいたから犯人というのは少々乱暴に思えたが、何らかの形で関与していることは間違いない。誰かに罪を着せるために松葉杖だけが利用されて本当は健常者しかいなかったのかもしれないが、どちらにしても犯人側の遺留物というのは変わりない。ドールは犯人に拘っているようだが、真犯人が誰かは保留していいだろう。
ドールの古びた部屋のある古びた棟。入口に飛び込む。
急がなければ、すぐに警官隊が来て……
……見せしめ?
「待て」
皮肉なことに、銀髪は天使と教え込まれ育った男には、この国の人間の考えることがよく分かる。
階段に足をかけていたドールが振り返った。焦燥と怪訝が入り交じった表情が
「そんな暇はない。すぐに国外に逃げる。城壁だ」
すぐに驚愕に変わった。
「え、なんで?」
「お前の王を信じろ。お前を助けたい」
立ちすくんだドールの手を強引に引いて、男は入ったばかりのエントランスから駆け出た。

手を引かれて駆けていく。
警官隊の笛の音が甲高く響く。
本当に"そんな暇"が無かったことにドールは衝撃を受けて
「ね、俺は犯人じゃないよ」
「馬鹿か」
強く握られた手が痛かった。
場違いだけれど、ドールは嬉びを感じていた。怒られて嬉しいのは初めてだった。普段ドールが男に叱られて感じるのは、何故怒っているのか分からないということ。そこまで思って、過去のことを思い出して、一瞬、国が恋しくなった。たとえ死ぬことになっても出て行きたくないとすら思わせる痛みが心臓の奥に蠢いた。この国で望んだことがたくさんあったはずなのに。そう責め立てる声がある。
でも、すぐに分かった。国が恋しくなったのではなく、この国で、男と過ごした安寧な時間が恋しいのだと。そう言い聞かせて胸のざわつきを鎮める。気持ちを殺すのは簡単なことだ。命を持ってなんかいないのだから。
男は建物の影にドールを押し込み周囲を探る。男の鬼気迫る眼差しとは裏腹に焦れったい進行だった。この国の学校は全て国土の隅にある。学徒は国が育てるもので、親元からは隔離するものだから。だから、ドールが不安なのだと思った男は「すぐだ」と言ってなだめることができた。
笛の音が校舎に寮舎に反響しながら聞こえた。その学び舎の切れ目からは確かに城壁が見えた。しかし、聖堂は敷地のなかでも城壁から遠い、国の中央寄りにある。遠い。ドールにとってはとても遠い。男との感覚のズレが強い不安を心に生じさせて、追ってきてる、囲い込みをしている、とドールは思わず縋りつくように声を漏らした。その自分の声は、他人のように聞こえた。
「大丈夫だ」
男の声が、ドールの頭上から優しく降りかかった。
「笛の音は俺たちを誘導するためのダミーだな。警邏の動きに合っていない」
それを囲い込みと言うのだと、ドールは言えなかった。 
(……俺たち)
たった一言が、この国を出るのだとドールに突き付けていた。
でもそれは1人ではないという意味だ。
さっきからずっと、様々な感情がドールの心の支配を奪い合い、思考は目まぐるしく変わり混乱していた。でも、そのなかにあっても、
逃げられるのか。
そう訊かずについて行けるくらい、この手を信じていた。しかし同時に、疑問を捨てきれない程に国の脅威が身に染みていた。
警官隊の足音や声はしないのに、笛の音だけ不気味な近くさで聞こえる。
そのドールの心中を悟って、男はドールの額を小突く。
「教えてやる」
そしてあくまでも高圧的に言う。
「城壁に致命的な欠陥がある」
「城壁って……国を囲んでる?」
「それ以外にあるのか?」
男はわざと軽い調子でとぼけて見せる。
「行くぞ」

生徒も寄りつかない資料棟の裏手。学校の隅、隙間を持てあましたように小さな小さな庭があり、それに相応しい小さな古ぼけた時計台が、ひっそりとツタに絡め取られていた。
ドールが思わず口を開けて立ち止まってしまうほど、あっさりと城壁の下に辿り着いていた。彼は男について走っただけだから簡単だったように感じるのだと思い直した。が、
「拍子抜けだな。警邏は俺たちの姿が見えないからと城門に向かっている」
男の言葉に驚きながら、どこかで納得していた。もしかした、国民全員そう感じるのではないだろうか……みんな薄々気づいていて、誰かが気づかないようにお互い威嚇しあって、覆い隠し表面を整えている、この国が張りぼてだと言うこと。軍事国家の癖にもうずっと戦ってもいない。外国人は軍事科の教科書にも載っていないことを知っている。警官隊がこんなに無力でも……当然なのかも知れない。
(でも、同族より外国人と接していたから、こんなこと考えるのかも知れない)
「見てみろ」
男の声に思考を打ち切って、城壁を見上げた。他のを見たことは無いけれど、高い城壁だと思う。下半分は成形されていない自然のままの石を組んだ建国当初からあるもので、上半分はモルタルや金属で出来ている。思えば、ドールは夕日や朝日といったものを見たことがなかった。それと同じくらい、城壁をきちんと見たこともなかった。
男はドールから手を離して、そしてその手で銀髪の頭を軽く撫でた。ドールが男の顔を見上げる。男は刹那だけ眼光を緩めて、すぐに城門を見上げた。
「この国の城壁は確かに高い。しかしそれだけだ。国内から攻撃されることを想定していない。なにより国民がそれを知らない。警邏の動きからも分かる。城壁を盲信している」
「え?」
国内から攻撃。そんなことを想定する必要があるのだろうか。
男はドールを残して城壁に歩み寄った。石組みの中から赤っぽい石を選んで触れる。
その背中を見ながらドールは、ああ、今か、と、思った。
時計を見た。短針と長針が出会おうとしている。
これから2人もそうなるのだろうか、もうなっているのだろうか。
笛の音。
少し遠くで聞こえた。
「昔」
男は穏やかな目をしていた。あるいは、感情の表層を取り繕った寂しい目だ。
「銀髪が……幸福を天上からもたらすはずの天使がいないから父が死んだのだと恨んだことがあった。お前は俺をこの国の人間とは違うと言うけれど、たいして変わらない。──それでも、」
俺と来てくれるか、という言葉を飲み込み
「死刑台から逃がすことはできる」
男は力を入れて石を押した。

男が両腕で大きく円を作ったら、この石が見せている表面に近い形になるだろう。それが、手品なんじゃないかと思ってしまうほど簡単に、向こう側に落ちていった。何故か全くの無音だった。
いつか、この男は城壁を指して「哀れな国」と言ったことがあった。でも、そのときドールには分からなかった。それを思い出していた。今もよく分からなかった。分からないことばかりだった。

男は視線と顎の動きだけでドールを促した。横柄なのではない。国に属さない人間たちの癖だ。

ドールは一歩踏み出す。
でもそれで足が止まってしまった。
空を見上げた。
つられて男も視線を上げた。
そのために止まったのかも知れない。そんな感じだ。
2人で見上げる空。
視界に入る校舎。
城壁。
空。
何もない、青い。
この国を出ても空は続いているというのも変な話。
静かだ。
杖を握る手に力を込める。
男は何も言わない。
笛の音も聞こえない。
風で髪が揺れた。
右足を前に出せ。
左足を前に出せ。
それから、
男の横に立って、手を取った。
そして、 
鐘が鳴る。

盛大になる予定だった聖堂の鐘ではない。きっとあの爆発で鐘つきも死んでしまったのだろう。音は鈍くふわふわと空気に拡散していく。ここにある小さな時計台から、見つかるのを恐れるように控え目に、それでも時計としての本分を全うするように。
ずっとこの時計は、人知れずこうして鳴っていたのだろう。
風雨に打たれ、誰からも顧みられず。
「卒業と、成人おめでとう」
ぎゅっと手を握る。ドールからその手を握ったのは、多分初めてだ。
「ありがとう、待っていてくれて」
泣いていた。






なぜ犯人を弔おうとしたのかは、また別の話にひっぱります。
書けば書くほど書くこと増えていく……。
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